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 だが、中学生にもなると環境も変わり、彼は黒い石のところへ行かなくなった。その頃クラスの人気者でさえあった彼は、むしろ子供の頃の些細な笑い話として「誰かから聞いた話」と前置きしたうえで願いを叶えてくれる石の話をクラスメイトにするほどだったそうだ。  その頃彼は成長期だった。いままで背の順で並ぶと前のほうだったのが、どんどん後ろになる。しかし、中学生にして彼の成長は少し異常とさえ言えた。過剰というべきか。勿論身長がにょきにょきと伸び続けていたわけではない。だが子供らしさは日に日に顔から消え、中学二年生のときには、私服で友人と出かけるだけで引率の大人と間違えられる有り様だった。それでも身体に異常があるわけではない。大人っぽいと女子にも人気さえあった。ただ、彼は内心ひどく気にしていた。  久しぶりに彼は石のところに向かった。建設中だったマンションは綺麗な新築に完成していたが、まだそこに石はあった。 (この成長を止めてください)  彼は願った。しかし、頭の中で音は鳴らなかった。何度願ってもその願いで音は鳴らず、試しに今夜お好み焼きが食べたい、と願ってみたところ、その場でカン、という音がした。 (この成長を止めてください)  やはり、音はしなかった。 「ねえ、ねえ」  不意に服の裾を引かれてぎょっとしながらみると、後ろに幼いといっていいほどの女の子がいた。 「まだ?」  どこか混乱しながら彼はその石の正面を彼女に譲った。 「明日はお花が咲きますように!!」  女の子が願いを口にすると同時に、彼の頭の中でカン、という音がした。  家に帰ると母のお好み焼きが待っていた。味のないスポンジを噛むように彼はそれを食べた。
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