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「見てみなさいよ」
「やだよ!」
僕は言った。
「大丈夫、怖くないから」
おばさんがなぜか明るい声で言うので、思い切って座敷のなかをのぞき込んだ。
「ほらっ……、あれ?」
やっぱり写真が倒れてる、一瞬そう思ったが、そうではなかった。
「えっ」
白い布がかけられた壇の上に、さきほどまであった写真の入った額縁がない。消えた?
「写真、どこにいったんだ?」
親戚の男の子が声を上げると、おばさんが僕たちのほうへくるりと振り向き、そして言った。
「写真なんてここにはないわよ。昼間に葬儀場へいくときに一緒に持っていって、向こうに置いてきたままだからね。明日、葬儀場から火葬場へ持っていくから、この家には持って帰ってこなかったのよ」
元々この部屋には、写真などなかったのだ。
つまり、僕たち二人はあるはずのないものが倒れるのを見たということになる。それだけじゃない。僕は倒れた遺影を二度、立て直したのだ。なのに……。
僕はこのとき、あまりの怖さに泣きだしてしまった。大きな声を上げて涙を流し続けた。
小学四年生のときに起こったこのおばあちゃんの写真事件は、生まれて初めての不可思議な体験であり、忘れられない衝撃の出来事として幼い心に刻み込まれたのだった。
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