第1章

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これは、私が子供の頃に体験した話です。 当時、私は大型のマンションの一階に住んでいました。 マンションは十五階建て、まだ高層マンションが多く建っていない当時は非常に目立つ存在でした。 それ故に、「ある」ことでも有名になってしまったのです。 ある日、私は家族と出かけた帰り、私と姉は上機嫌で車を飛び出し、マンションのエントランスに向かいました。 入り口を見た瞬間、私達は凍りつきました。 入り口前には、落下物を防ぐ網状のフェンスが天井部に設置されているのですが、そのフェンスが下に向かって突き破られ、床は真っ赤に染まっていました。 聞くところによると、私のマンションから数十メートル離れたマンションに住んでいた女性が、私が住んでいたマンションで飛び降り自殺をしたそうです。 私と姉は急いで自分の家に入り、玄関から一番遠い部屋にこもりました。 エントランスから、私の住んでいる部屋まで十数メートル、その日は兄が一日中家にいましたが、昼過ぎ頃にドスン、という音を聞いたそうです。 しばらく、マンション内はこの話題で持ちきりでした。 私の住んでいる棟は、ベランダ側に鉄道が走っていて、防音と豪雨対策のために20メートルほどの原っぱがありました。 原っぱには雑草が生い茂っており、小学生の私は探検ゴッコ感覚で原っぱを進んでいました。 丁度、私の家のベランダに辿り着いたときです。 ベランダの真下に、花束が置いてありました。 怖くなった私は、急いで自分の家に戻りました。母親にこの事を話すと、「ただ、誰かが花束を落としたのよ、」と言って、相手にしてくれませんでした。 それから十数年後、母親から花束の真相を聞く事ができました。 私が花束を見つける数日前、家族は祖母を除いて全員出掛けていました。 昼下がりのあるとき、家のチャイムが鳴り、祖母が玄関を開けると、警察官が何名か立っており、「この家からベランダの外を見せてほしい」 と言われました。 祖母はベランダに案内し、警察官の方々は一斉に外を眺めました。 ああ、やっぱりあそこだ・・・ 一人の警官は目を逸らし、一人の警官は口を押さえ、全員が何かを確認し、大きなため息をついていました。 そこには、男の死体があったそうです。 男は、青い作業服を着ていましたが、年齢は確認できませんでした。
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