第3章 こうして私は私立探偵になった

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第3章 こうして私は私立探偵になった

 ことの経緯を箇条書き風に簡単に説明すると、 ・美大に進んだ天は、都市空間デザインを専攻し、課題に明け暮れる毎日を4年間送るも、デザイナーにはならなかった。 ・都市空間/パブリックデザインに一入(ひとしお)の興味があったのは間違いないが、アルバイト先のカフェバーで知り合った50絡みの男に次のように言われ、人生が180度転換した。 ・自分は私立探偵を生業にしている(いたよ、バーに探偵)。じつは肝硬変のステージ2でもう長くはない。ほぼ絶縁状態の家族とは音信がなく、死を目前にして、誰かに自分のことを憶えていて欲しくなった(自嘲)。若く生きのいいスタッフを探している。 〝おまえ、やってみねぇか? 私立探偵……――この雑居ビルは自分のだ。事務所ごと俺の後を引き継いでもらいたい〟 ・所長以下スタッフにもやけに気に入られ、さまざまな調査を手伝ううち、気づけばどっぷりその世界に浸っていた。それは、意外に整頓されていて小ぎれいな事務所空間とは対極の、塵芥にまみれた混沌世界だった。 ・母には悪いことをしてしまった。希望する大学に行かせてもらっておきながら、裏切ってしまった。詫びを入れる彼に母はひと言、一度きりの人生なのだから、存分に生きよと諭した。 ・初めて声をかけられたとき、冗談だと思っていたビルの無償譲渡を、所長からあらためて持ちかけられた天は、それを丁重に断った。相続にともなうトラブルに巻き込まれたくなかったからだ。
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