第3章 こうして私は私立探偵になった

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「正直、俺はあいつらにびた一文渡したくはない。あいつらだって、俺の遺産なんざ不用なはずさ。だが万が一ってこともある。俺の死後におまえに迷惑がかかったら、死んでも死にきれんからなぁ……ハッハッハ!」  所長は福岡で代々続く老舗温泉旅館の長男だった。  本来なら今頃は、跡取りとして宿を切り盛りしていたはずだ。それがなぜ、東京の下町で私立探偵をする羽目になったのか? 「 羽目になった(・・・・・・)んじゃねぇよ。否定的なニュアンスが感じられんだろ、その言い方じゃ。  俺はな、この稼業をやりたくてやってんだ。いいか、天。人間ってなぁな、やらされている仕事でも、そのうち面白みを見つけたりできるもんなんだよ。楽しみを生み出すことができる――すげぇことなんだぞ、これは。それがやりたい仕事なら、どうなると思う? 周りがどう言おうが関係ねぇ。俺はいま最高に幸せだ」  所長と所長の家族の間で、いかな確執があったかは、結局判らずじまいだった。
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