謎の本屋と、謎の店員。黒猫のスパイス。

10/11
前へ
/13ページ
次へ
「解毒法、見つけてくれて、ありがとう。 これでようやく、まともな生活が送れるよ」 黒猫を腕に抱き、そう言ったのは、彼女よりいくらか背の高い女性。 けれど、その顔を見てゾッとする。 長く伸ばした前髪の隙間から、焼けただれたような皮膚が見えた。 裂けた唇。 白濁した黒目。 桜色の頬肉。 剥き出しの血管。 「お姉ちゃん!」 「え? おねえさん?」 「はい。 同じ日に、同じ症状で病院に運ばれた姉です。 私と同様、生死をさ迷ったあと、家に引きこもってしまって……」 「そうよ。 あの日あんたに誘われて、あの廃墟へ向かわなければ、私はこんな姿にはならなかった」 「廃墟?」 「大昔に閉鎖された地方の病院。 インスタにアップしたら絶対おもしろいから! とか、つまんない理由で付き合わされて……」 「ごめんなさい! スマホは解約したし、反省もしてます」 少女が頭を下げるのを見て、ハッとする。 「じゃあ原因不明のウィルスって、もしかして……」 「あんな場所に行ったせいで腐ったの。 私たちは二人とも。 だけどようやく、この地獄のようなゾンビ生活からも解放される。 私はここに載ってる薬の効果で、生き返って元の姿に戻るから!」 「わ、私も……」 妹である彼女が口にしようとした言葉を、姉は鋭く遮った。 「あんたはダメよ。 私が味わった苦しみと絶望と後悔。 全ての罪を背負って、その姿のまま生き続けなさい。 それが私に対する、せめてもの罪滅ぼしだと思ってね」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加