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「ハイ、カット!」
監督の声がして、カメラがとまる。
「お疲れさまー」
にこやかに声をかけてくる撮影スタッフの姿。
それまでの緊張感から、一気に解放される現場。
「長回しで、よく撮りきったねー」
何とかNGなしで乗り切ったことへの充足感。 安堵感。
「お疲れ。いい演技だったよ」
淹れたてのコーヒーを片手に、ディレクターズチェアで休憩する彼女の元へ、ねぎらいの言葉をかけにむかう。
「ありがとう」
セットの端で差し出された紙カップを受け取る、新人女優の彼女。
この映画のオーディションには、とんでもない数の応募者が集まったらしい。
その中から選ばれただけのことはある。
普段からこんな世界で仕事してたって、簡単にはお目にかかれないくらいの美少女。
いきなり主演に抜擢されるだけの、度胸と演技力も兼ね備えていて、さすがです。
「いい作品ができそうだよね」
笑顔をむけたら、ほほえみ返してくれた。
「たくさんの人が観てくれたら嬉しいです」
そう言って、飲み干したカップを床に置こうと伸ばした手。
撮影中と同じような感じで、力なく肩からぷらりと垂れ下がってる。
「だけど、どうなってるの? それ。
台本読んだときは、あとでCG加工するんだとばかり……」
手にとって、じっくり眺めてみたいと思い、指先に触れようとした瞬間、彼女が叫ぶ。
「ダメッ、さわらないで!」
だけど、もう遅い。
ボロッ! ……音を立てて外れる肩。
「え?」
「あ」
【完】
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