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最近、週一くらいで通っている本屋がある。
駅前の裏通り、雑多な店舗が入るビルの地下。 存在さえも忘れ去られていそうな、さびれた店構え。
近所の大型書店に目当ての書籍がなく、そう言えば……と思い、ふと立ち寄った古本店。
一歩足を踏み入れた瞬間、カビ臭と埃のまざったようなにおいが、ぷぅん。
外の喧騒とは一線を画す、もの憂げな雰囲気の漂う店内。
昼間でも薄暗く、静まり返ったフロア。 並べられた本棚の間を通り抜けた先に、彼女は居た。
レジカウンターの椅子に腰をかけ、木製の台に頬杖をつき、手にした本に目を落とす。
時おり、そばで体を丸めて眠る黒猫の毛を、指先で撫でつけたりしながら。
一目見た瞬間、釘付けになった。
透けるような白い肌と、長く伸びたストレートの黒髪。
細い首すじ、華奢な体つき、赤く色づく唇。
その姿は、まるで蝋細工で出来た人形のよう。
美しく、ただ、美しく。 もはや、この世のものとは思えないほど。
彼女を造形する、全ての要素に心奪われる。
しかし、もちろん人形などではない。 幽霊でもない。
本を携え、清算のためレジに来るお客がいれば、それまで熱心に読みふけっていた書物から目を離し、顔をあげ静かな声で対応する。
つまり彼女は、この本屋の店員なのだ。
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