4人が本棚に入れています
本棚に追加
「す、すみません! 腐ってるんです」
慌てた様子で彼女が叫ぶ。
「……くさって、る?」
胴体から離れたくせに、まだカウンターの上でピクピクと指先の動く腕を眺め、絶句する。
「ごめんなさい。 本当は、死んでるんです、私」
そう言いながら、取れた右手を左手で拾い上げ、もう一度、肩にはめようとする彼女。
「しんでる? ……お、お化けですか?」
「違います。 一度死んだんですけど、生き返ってしまって」
「……え」
ぐしゅり、という音と血まじりの体液を飛ばし、強引に接続された肩を見て、思わず吐き気を覚えた。
反射的に目をそむける。
「あ、あぁ。 そうですよね。 気持ち悪いですよね、こんなの」
申し訳なさそうに言われ、どうしていいかわからなくなった。
確かに、お化けのほうがまだ良かったと思うほど、気持ち悪いけれど、その感情を正直に口にしてはいけない気がする。
彼女を傷つけたくない。 すでに、触れたら壊れるほどボロボロなのに。
「今見たことは全部、忘れてください。誰にも内緒にしておいて欲しいんです。
店主にバレてしまったら、このお店を辞めさせられます。
もう、ここにある本を読んで、情報を集めることができなくなってしまう。
どこかに体を元に戻す方法が載ってるかもしれないのに……」
「戻す方法? あるんですか? そんなのが」
だとしたら最高じゃないか。 こんな世にも美しい少女が、生身の人間になれるだなんて!
「わかりません。 あればいいなと思って調べているんです」
肩を落とし、うつむく相手。
うなだれたまま、まつ毛を伏せる表情が切なかった。
きっと普通に生きてきた頃は、もっとずっと血色が良く、麗しかったに違いない。
そんな姿を見てみたいと思った。 生気と活力みなぎる笑顔を取り戻してあげたい。 この自分の手で。
最初のコメントを投稿しよう!