謎の本屋と、謎の店員。黒猫のスパイス。

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「す、すみません! 腐ってるんです」 慌てた様子で彼女が叫ぶ。 「……くさって、る?」 胴体から離れたくせに、まだカウンターの上でピクピクと指先の動く腕を眺め、絶句する。 「ごめんなさい。 本当は、死んでるんです、私」 そう言いながら、取れた右手を左手で拾い上げ、もう一度、肩にはめようとする彼女。 「しんでる? ……お、お化けですか?」 「違います。 一度死んだんですけど、生き返ってしまって」 「……え」 ぐしゅり、という音と血まじりの体液を飛ばし、強引に接続された肩を見て、思わず吐き気を覚えた。 反射的に目をそむける。 「あ、あぁ。 そうですよね。 気持ち悪いですよね、こんなの」 申し訳なさそうに言われ、どうしていいかわからなくなった。 確かに、お化けのほうがまだ良かったと思うほど、気持ち悪いけれど、その感情を正直に口にしてはいけない気がする。 彼女を傷つけたくない。 すでに、触れたら壊れるほどボロボロなのに。 「今見たことは全部、忘れてください。誰にも内緒にしておいて欲しいんです。 店主にバレてしまったら、このお店を辞めさせられます。 もう、ここにある本を読んで、情報を集めることができなくなってしまう。 どこかに体を元に戻す方法が載ってるかもしれないのに……」 「戻す方法? あるんですか? そんなのが」 だとしたら最高じゃないか。 こんな世にも美しい少女が、生身の人間になれるだなんて! 「わかりません。 あればいいなと思って調べているんです」 肩を落とし、うつむく相手。 うなだれたまま、まつ毛を伏せる表情が切なかった。 きっと普通に生きてきた頃は、もっとずっと血色が良く、麗しかったに違いない。 そんな姿を見てみたいと思った。 生気と活力みなぎる笑顔を取り戻してあげたい。 この自分の手で。
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