謎の本屋と、謎の店員。黒猫のスパイス。

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「あの、詳しく教えて頂けませんか? 何か力になれるかもしれない。 まだ学生の身ですが、少しは医学の知識もあるので」 「本当ですか? ありがとうございます。 嬉しいな」 伏し目がちのまま、儚くほほえむ彼女の横顔に見とれる。 本当に、たまらないほど可愛かった。 気味が悪いなんて思ったのは、きっと自分の勘違いだろう。 「私が、こんな体になったのは、とある病院で治療を受けた結果です。 突然、呼吸困難におちいり、担ぎ込まれた院内で、私はこん睡状態におちいりました。 原因不明のウィルスに感染していたんです。 家族には、助かる見込みがないことが伝えられました。 未承認の薬を投与する以外は……。 その薬が私の命を救うたった一つの方法だと知り、藁にもすがる思いで両親は主治医に言ったそうです。 〝何でもかまいません。 娘を助けてやって下さい!〟」 静かな口調で、淡々と話を続ける相手。 店内に漂う特有の匂い。 古い紙が酸化したようなそれ。 その独特の芳香は、もしかしたら、この場所に大量に並べられている書物のせいだけでなく、彼女自身から発せられるものかもしれないと思うと、何だか複雑な気分だった。 「意識が戻り、私が目を開いた瞬間、家族は喜びました。 ただ、その日からずっと全身の痛みが続いています。 徐々に肉体は腐っていくのですが、それでも完全に死んだりはせず、先ほどのように元に戻すことも簡単なのです。 この体が、どうなっているのか自分でもわかりません。 医師の先生もお手上げ状態で、気休めに痛み止めの薬を処方されるくらい。 こんなことなら、あのまま死んでいたほうが楽だと思うことも、度々ありました」 「……そうですか。 ずいぶん大変だったんですね」 かわいそうに。 不憫でならない。 どうしてこんな美しい娘が、そんなつらい思いをしなくてなはいけないのだろう。 何とかして力になりたい。 何とかして元に戻る方法を。
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