謎の本屋と、謎の店員。黒猫のスパイス。

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「その時、投与された薬なんですけど、名前はわかりますか?」 「いいえ。 病院内にはカルテも何も残っていません。 何しろ承認されていない治療を極秘に施してもらったので」 「主治医の先生の名前は憶えていますか?」 「あぁ、確かタナカ先生という方です。 けれど、その先生も、もう他へ移られたそうで、今は連絡がとれません」 「いいですよ。 病院名と一緒に検索すれば出てくるでしょうから。 ちょっと調べてみますね」 スマホを操作し、出てきたプロフィールをたどって、当時の担当医が書いた文献を探し当てる。 「あ、本として出版されてる。 もしかして、この店のどこかにもあるかもしれませんね。 探してみましょう!」 意気揚々とフロアを歩き回ってた。 この店内に、医療系の書物が多く揃っていることは、以前から知っている。 大型書店に取り扱ってないようなものも、案外、簡単に見つかったりする。 なにしろ、この店のことは熟知しているんだ。 今日に至るまで、けっこうな頻度で通っていたから。 ……そうして予想通り、それはあった。 店の一番奥まった場所にある棚の端から、目的の本を見つけだし、手に取る。 「そっか。 こういうものを読まなければいけなかったんですね、私。 死体や蘇生の話なら、ホラーやミステリーに多く書かれていると思い込んでたから」 感心した様子で呟かれ、ちょっと得意な気分になった。 見た目だけじゃなく、性格も素直で素敵な彼女。 そんな体でないのなら、今すぐにでも抱きしめたいけれど……と、密かに思いつつ、パラパラとページをめくる。
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