佐々木 晃

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「晃」 「美咲、久しぶり」 佐々木(ささき)(あきら)。 二歳年上の二十六歳。 出版社に勤めている編集者だ。 お洒落なバーで知り合い、それから何度もデートを重ねてきた。 距離はかなり縮まり、今日は初めて彼の家にお邪魔する。 職場の近くにあるらしい高層マンション。 高級そうな家具たち。 「今日、本当に家デートでよかったの?」 「うん、家デートがいい。…ちょっと、伝えなきゃいけないことがあるから」 「え、何?」 今日は土曜日。 まだお昼だというのに、晃は当たり前のようにワインを注いでくれる。 グラスも高そうなものだ。 そういう余裕は、年上ならではだと思う。 「どうかした?何でも聞くよ」 「うん…。実はね」 白いソファに横並びに座り、小さく息を吸う。 こっそりと彼の顔を覗き見ながら、表情の小さな変化も逃さない。 「好きな人が、できて」 「…好きな人?」 「うん…。晃、以外に」 ふふっ。 声には出さずに笑みを漏らす。 彼は気づいていない。 表情が変わったということに。 自分が過ちを犯したということに。 「…そっか」 さて、どうくる。 頭の中でいくつもの返答を思い浮かべる。 これが最後のチャンス。 貴方にあげる、最後の優しさ。
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