佐々木 晃

3/6
前へ
/21ページ
次へ
「美咲は、本気でその人が好きなの?」 「うん…」 「…だったら、俺たち別れよう」 パリンッ。 ガラスが割れた音がした。 …あーあ。 最後の選択肢にも気付かず、結局は自分の優しさに酔いしれているだけ。 彼女のために別れた。 彼女が幸せなら俺はいい。 物わかりのいい俺は、彼女思いの優しい人だ。 俺は、いい人だ。 「…ふふっ、ふはははは、ははは。あははっ」 「え?」 堪えきれない音が漏れる。 それに連動した間抜けな声。 まだ気づいていない、馬鹿な男の声。 「残念でした」 「…美咲?」 「本当は、私と別れたいのは晃の方でしょう?」 彼の首に手を回し、熱いキスを落とす。 しかし、それはすぐに拒まれた。 「美咲。な、何を言ってるんだよ」 嘘をつく時の彼の癖。 本人は気づいていないかもしれないが、声を発する前に荒い息が漏れる。 「…当たり?」 ソファにゆっくりと彼を押し倒し、馬乗りになる。 この瞬間を予想して白シャツを着てきてよかった。 男の人の反応は大体調査済みだ。 彼がスーツ姿の女性がいない環境で働いているということも、もちろん調査済みだ。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加