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記憶
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目の前に居る少女は目に涙を溜めて震えている。恐怖のあまり叫び声をあげることも出来ずに。
とある地下室、裸電球が一つ、かすかに揺れて、静止しているはずの少女と男の影が動いている。
「ごめんな、もう君には用がないんだよ」
そう言った男の眼は笑っていた。
男の手に握られたサバイバルナイフが電球の明かりを反射させ鈍く光る。
「本当はこれが楽しみだったんだよ」
そうつぶやくと、少女の洋服をそっとつかみ、その真っ白な腹部をあらわにさせる。
手にしたソレを、ナメクジが這うその動きと違わぬかのような速度でゆっくりと少女の左わき腹へと進めていく。
切っ先が当たり血が滲んだ時、初めて少女が大声をあげた。
ソレを避けようと必死にもがくが、男の全体重がそれを阻止する。
「これこれ、この感触」
男の眼は喜びに満ちていた。。。
「ごめんな、最初からこうするつもりだったんだよ」
男が手に掛けるのはこれで二人目だった。
男は身代金目的でこの少女を誘拐した後、更にもう一人、年の頃はこの少女と同じ位の小学校低学年でと思しき少年をさらった。
今から2日前、同様の手口で少年を殺めた後、遺体を少女の地元にある駅の前に捨て、その後に少女の親である某有名会社社長に電話をした。
どこかで聞いたような誘拐犯のお約束のセリフを吐いた後、こう付け加えて。
「明日の朝、ニュースを見てみな。○○駅前で子供の遺体が発見されるはずだ。娘を同じ目に遭わせたくなかったら、言う通りにするんだ」
翌日、それを真実と知ったその社長は、言われるがままにお金を用意し、指示通りにした。
結果、誰にも知れることなく、この男は大金を手にした。
しかし、身代金目的というのも、男にとっては二の次の目的でしかなかった。
本当の目的は・・・
「まだ死ぬなよ、まだ死ぬなよお。」
男の口がいびつに歪む。
男がその感触を十分に味わった頃、少女の鼓動は時を刻まなくなり、見開いたままの眼はもう瞬きをする事もなかった。
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