運命を導く本

2/6
前へ
/6ページ
次へ
「あれっ? ここは……本屋?」  登山用のウェアを着て大きいリュック背負った男の視界には、何処にでもある本屋の店内が映し出される。  その光景は、よく見ると異常な部分が幾つもあった。  照明は薄暗く、出入り口が見当たらない。客や店員などの気配も無く、動かない壁時計からは異様な気配を感じる。まるで異世界に迷い込んだと錯覚してしまう程に不気味だ。  さらなる異常に気付く寸前、背後から声を掛けられた。 「いらっしゃいませ」 「うわっ!? ……おっ、驚かせるなよ!」  振返ると容姿端麗な男が立っていて、その肩の上で猿が不気味に笑う。 「フフッ……失礼しました。私は運命を操る悪魔のアイムと申します。この子は使い魔のファミリアです」 『ファミリアだ。宜しくな!』  非現実的な空間に、人語を操る猿。夢かと思った瞬間、アイムが心を読んだかの如く声を発した。 「勿論、夢ではありません。では、混乱した記憶の修復から始めましょう。あなたは休日を利用して、趣味の山登りをしていました」 『山登りをしてたんだよ』  確かに男の趣味は登山。そして今も、山登りに適した服装と装備をしている。 「そこで、あなたは最高の被写体を見つけました。太陽、雲、霧、そして偶然飛び立った美しい鳥……」 「あっ!?」  男はアイムの言葉を遮り、思わず大声を上げてしまった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加