運命を導く本

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「そうだ! 確かに俺は山登りをしていた。そして、カメラに収めたい神秘的な風景を目にしたんだ!」 「そうです。無我夢中でカメラを手に取り、色々な角度から絶景を写しましたね。そして、崖から足を踏み外した」 『踏み外した!』  全てを思い出し、男は膝から崩れ落ちる。 「……俺は……死んだのか?」 「いえ、落下している最中です」 「落下している?」 「死の寸前に私が時を止め、ファミリアがあなたの魂を抜き取りました。つまり、今のあなたは魂だけの状態です」 『感謝しろよ!』  肩から飛び降りて跳ねまわる猿の姿が、この空間だと恐怖にしか感じられない。 「では、本題に移らせて頂きます。このままでは、あなたは体を強く打ち付けて即死。そして、捜索も虚しく遺体は発見されずに放置となります。そこで取引をしませんか? ここにある無数の本は、あなたの運命を変える力があります。正しい本を選んで、生き延びる運命を導き出して下さい。但し、間違った選択をした場合……魂は私のものです」 『間違うなよ!』  全身の震えが止まらない。逆らってはいけないと、魂が感じ取っていた。 「正しい選択をすれば生きれるんだな? 分かった、契約しよう」 「契約成立ですね。では、ここにある本の中から一つだけ選んで下さい。それが、あなたの運命となります。制限時間は一分。本は確実な未来へと導きますよ……」  アイムとファミリアは姿を消し、動かなかった時計の秒針だけが時を刻み始める。男は焦って辺りを見渡し、忘れかけていた違和感の正体に気付いた。
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