0人が本棚に入れています
本棚に追加
和孝の予想通り、数分後には街はパトカーや警官が行き交い、騒然としていた。
和孝はその中を逃げ続けた。
走って、隠れて、また走る。
そうして警官から逃げ回る。
その間にも、パソコンの画面に向かって実況することを忘れない。
閲覧数を示すカウンターも、コメント欄も、数字は上がり続け止まらない。
この調子ならもうすぐ自己最高記録の視聴者数を稼げるだろう。
和孝は笑いが止まらなかった。
パトカーの追跡から身を潜め、警察の追手をなんとかやり過ごす。
走り酷使し続ける体はすでに限界で、息も絶え絶えだった。
このままでは、もうすぐ捕まってしまうだろう。
だがそれでいい。
どうせ捕まるのなら最後まで足掻こう。
そのほうがきっと盛り上がる。
「止まりなさいっ!」
「聞きましたかぁ皆さん!!止まりなさいだって!止まるかよ捕まえてみせろよバァーカ!!」
『警察無能だなwww』
『はよ捕まえろよ』
『おれここまできたら笹クマ応援するわ』
『お巡りさんこっちです!』
『警察vs笹クマ』
『もうパトカーで引いちゃえよwwwwww』
『笹クマガンバww』
コメント欄に書き込まれる言葉が、今まさに自分を見てくれているという実感が、疲れ切ってるはずの体に力をみなぎらせる。
「よーっし!こうなったら逃げ切ってみせっぞ!!見ててください皆さんっ!!」
逃げ切れるはずが無いのに、高揚感に包まれた和孝は止まらない。
だが、警官との距離はじりじりと狭まっていく。
和孝は笑いながら、目の前の廃ビルの規制線を乗り越え、そのまま外の螺旋階段を駆けて上がって行く。
ふと、後ろから追ってくる警官の気配が消えている事に和孝は気づいた。
階段の途中で立ち止まり下を確認すると、警官達はなぜか階段を上がらず、その目の前で和孝に降りてくるよう叫んでいた。
「アホかっ!誰が降りるかよっ!!」
和孝は構わず階段を駆け上がる。
その先の足場が、腐食している事に最期まで気づかずに。
最初のコメントを投稿しよう!