Part.1

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「おっし!自己最高記録更新っ!」  パソコンの画面の前で一人ガッツポーズを決める男、高橋 和孝(かずたか)。  彼はパソコンの画面に写る、数字のカウンターを見て歓喜の声を上げたのだ。  カウンターが示すのは、和孝が上げた動画の視聴回数。  和孝は自分で撮った映像を、有名な動画サイトに上げる所謂、動画職人だった。  今、こうして説明している間にもカウンターの数字は上がってゆく。  今回、和孝が上げた動画はいつもの倍以上の視聴回数を集めていた。  コメント欄も、どんどん更新されて匿名の視聴者達の言葉が書き込まれていく。 『笹クマサイコーwww』 『今日もクレイジーだねぇwww』 『ちょwwwヤバイだろコレはwwwwwwwww』 『これは笹クマにしかできんわ』  笹クマ、というのは和孝の動画サイトでのハンドルネーム。  和孝はその界隈では知らない者はいない有名な動画職人だった。  和孝が今回上げた動画は、一言でいってしまえば動物への虐待動画。  タイトルは《ハムスターをこんがり揚げてみたwww》。  タイトルから説明する必要はないと思うが、ご想像の通り。ハムスターを天ぷらを揚げる要領で高温の油に放り込むというもの。  和孝はこういった過激で反社会的な動画を上げることで有名であった。  最初はいたって普通の動画だけを上げていたが、それでは再生回数が稼げないとすると、こういった過激な動画を上げるようになっていったのだ。  和孝がそこまで再生回数にこだわるのは、料金が発生して小遣い稼ぎになるから、だけではない。  危ない事をしているというスリル、それを見て評価してもらえる満足感、みんなが自分を見て支持してくれているという優越感のためであった。  もちろん、来るのは賞賛のコメントだけではない。 『またお前かよキ○ガイ』 『さっさと捕まれ』 『命をなんだと思ってるの?』 『いい加減気分悪いわ、死ねよ』 「はっ、とか言ってお前らも何だかんだで見てんじゃねぇか」  批判の声に対してそう悪態をつく和孝。  彼にしてみれば、こうした批判のコメントも自分に対する賞賛と変わらなかった。   
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