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「のっちゃん…あれ、気味悪くないの?」
向かいに座る萌香の言葉に気がつくと、俺はあいまいに笑みを浮かべた。
…数年ぶりの遊園地。夢を騙るそのテーマパークで俺と萌香は昼食をとっている。
喰っていたのは鳥のもも肉。いわゆる骨つき肉というやつだ。
それは隣のテーブルも同じであり…。
「ねえねえ、向こうでパレードやってる、お姫様がいるよ!」
飯を食ったあと、萌香は首にぶら下げたカメラで近づいてくるゴンドラをパシャパシャと撮っていく…だが俺は、こんなまがい物のパレードよりも、あのテーブルで見た光景のほうが忘れられなかった。
ふと見上げた城や家は子供の頃にきたときよりもずいぶん小さく見え、そのはしには何羽も連なるスズメや鳩がいた。
その一羽と目があったような気がして、俺は思わず目をしばたく。
「…もう、のっちゃん。本当に楽しんでる?なんか萌香つまんないよぅ。」
そうして四つ目のアトラクションにのった萌香はそう言うと近くのベンチに座り込んだ。
ぶらつかせる足はタイツもはいていない生足のミニスカートで…俺は萌香に立ちあがるように言うと、近くの池に浮かぶ人工島に寄って休んで行こうかと誘った。
「え?え?それって…。」
そして萌香は顔を赤らめると、大人しく俺について行く。
…ボートが小島につくころには夕暮れ時で、そろそろパレードの始まる時間らしくまわりの人間が向こう岸へとボートを漕いでいく様子が見えた…だが萌香は俺と一緒にいたいようで、俺の肩に頭を乗せ、動かない。
そうして俺は島の片隅にボートを停めると萌香を人気のない茂みへと連れて行き…どさりと地面に降ろして上を見あげた。
…そこは木々の多い場所らしく、枝で休む鳥たちは俺たちのことをじっと見つめていた。
その一羽と目が合ったような気がして、俺はにこりと微笑むと、レストランでくすねたナイフを取り出し、すでに窒息死した萌香の体に刃をつきたてる。
…チキンの食いかすに群がる鳥たち…あのテーブルで見た光景。
そこに罪や共食いの意識はない。彼らは飢え、ただ喰うだけだ。
その現実に…夢の国に浮かぶ現実に、俺は背筋がぞくぞくするのを感じた。
もう一度、あの感覚を味わいたい。もう一度、あんな現実を見たい…。
そうして俺はほどよい大きさに肉を解体すると上を見あげてこう言った。
「…さ、喰えよ。」
その声に応えるように、一羽のカラスが舞い降りてきた…。
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