狂った男と少女の出会い

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カランカランッ。 鈴の音が辺りに響く。 高すぎず低すぎないこの鈴の音はとても心地がいい。 私は中に入り、店の中を見渡した。 「…ん?」 私はあるものに釘付けになった。 「あれは…。」 おそらくお会計をする場所にある一冊の本。 赤く、まるで光り輝いているように見えるその本。 まるで開いてはいけないかのように鎖が巻き付いている。 ……何であの本だけ…。 その本の周りには本が山積みになっている。 本当にその本だけちょこんと置いてある。 まるでその本だけは特別だと言っているみたいに…。 「……。」 私はまるで見えない力に引き寄せられるかのように、その本へと近づいていった。 ……あと少し…あと少しで指が届く…。 そう思った時だった。 「誰かいるのか?」 「え?!」 突然のことに私は驚いて尻もちをついた。 何故かあの本を持って…。 「疲れたな。」 ……やっぱり…誰かいる? 私は声がした方を見てみる。 だけどそこには山積みの本があるだけ。 ……まさか…。 一瞬にしてある予感を感じた。 そしてその予感は見事的中することになる。 「前が見えないな…ああ。」 そう言った声が聞こえると、山積みになっていた本が崩れ始める。 ……やっぱり…。 「本に埋まっていたか。そりゃ前が見えない訳だ。ハッハッハ!」 そう、正体不明の声の主は本に埋まっていた。 ……どうやったら本に埋まるの…? 「ん?」 「あっ…。」 正体不明の声の主はどうやら男だったらしい。 一つに束ねられた長くて艶やかな黒髪。 昔の貴族のような燕尾服。 首にはヨレヨレのリボンが巻かれていた。 そしてその男の顔は人形のように整っている。 瞳の色は空のように青い。 「……お前…。」 男が口を開く。 すると男は楽しそうに、ニヤリと笑った。 「触ったんだな?」 「え?」 「その本。」 男は私が持っているあの本を指さす。 ……もしかして触っちゃダメだった? そもそも何でこれを抱きかかえたんだろう。 「…お仕置きが必要だな。」 そう言って厭らしく笑い、男は本から完全に脱し、私の前へと歩いてくる。 そして私に目線を合わせた。 ……何? 「俺を満足させろよ?」 「え?」とたった一文字も私は言うことができない。 気づいた時にはもう目の前に男の顔があり、口を塞がれていたから。 ……男の唇で…。
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