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あの時私は二つの事実から目を背けるように、その言葉の意味を必死に考えないようにしたものだ。一つは、父に喰い殺されたかもしれなかったこと。もう一つはあの言葉。父は確かに『お前のほうが』旨かったと言った。つまりそれは私以外の誰かを喰らった可能性もあるということだった。毎晩出かけていたのは誰かを殺して喰っていたからだとしたら……。
「それ、駄目だよ」
突如聞こえた子供の声に顔を上げると、目の前に十を越えたくらいの少年が立っており、私の手元を見つめていた。そこでようやく自分が鉈を見つめたまま放心状態に陥っていたことに気づく。
「それは頭首様が百目の首を切り落とした神聖な物。勝手に棚から出しちゃ駄目」
「あ、ごめんなさい……」
子供を叱る母親を真似たような少年に毒気を抜かれた私はとりあえず鉈を元の場所に戻した。今のところ身の危険はなさそうだ。
「えっと、ヒャクメって?」
「この家に祀られてる女の生首だよ。持ってきてやるから待ってろ」
そう言って駆け出す。子供とは思えないほどの上から目線だったが腹は立たなかった。
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