第一章

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第一章

 私が百目鬼一族の屋敷に嫁いだのはつい先日のことであった。  目立たぬようにとの要望で誰一人見送る者は居らず、花嫁衣装を身にまとって紫門家の門の前に辿りついた私を全身黒ずくめの使いの者が迎え入れた。  門を通ってすぐ広い庭園が見えたものは椿の木だけで統一された庭園だった。赤い花に見惚れていると「はやく」と使いが私の手を引っ張り、屋敷に足を踏み入れた途端に一言も口を利かなくなったことを覚えている。声からするにおそらく女性であったのだろう。  それからはもう手は掴まれてはいなかったが、機嫌を損ねぬように周囲に気を取られることなく彼女の歩調に合わせて足早に廊下を歩いた。彼女が黙ったままなので私も黙っていた。許しもなく何かを尋ねたりしてはいけないような気がしたのだ。  しばらくして足を止めた彼女が右手側の襖を開いて中を確認していた時に何気なく振り返ってから思わず息を呑む。背の高い男が僅かに開いた襖の陰から半分顔を出した状態でじっとこちらを見つめていた。
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