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歳は三十から四十あたりだろうか。無造作に切り揃えられた髪は右目を覆い隠しているように見え、こちらに手を伸ばすように押し当てた左手が時折襖をがりがりと引っ掻いている。獣を思わせる鋭い瞳は睨みつけているのか、それとも元々のものなのかは判断がつかなかった。
私はどう声をかけていいものか分からず(そもそも喋っていいのかも分からなかったので)そっと一礼した。すると男は表情を変えぬまま襖から手を離してゆっくりと手招きする。何となく抗えぬ何かを感じた私がおそるおそる一歩足を踏み出した時、「いけません!」と短く叫ぶような女の声が聞こえ、その直後腕を強く後ろに引かれて開け放たれた部屋の中に転がり込んだ。
目の前で強く閉められた襖を見つめて呆然とする私をよそに外からは先程の男性を叱りつけているような声が聞こえてくる。
「あなたという人は……あの子に一体何をするつもりだったのですか。彼女は杏子ではないのですよ?」
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