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彼が何て答えたかまでは聞き取れなかったが、少し経ってから襖を開けた彼女の声の様子からしてなんとか言い聞かせることが出来たようだった。
「先程は乱暴をして申し訳ございませんでした。お怪我はございませんか?」
私は上手く返事が出来ずにただ頷いた。
彼女は後手で襖を閉めると膝をついて深々と頭を下げた。
「まもなく劉禅様がこちらへお見えになります。ひとまず私のことは美代とお呼びください」
「はい。あの……」
私はどうしてもあの男性が気になってしまったものの、流石に今訊くのははばかれた。それを察した美代が自分から説明を始める。
「あの男は昔あることがきっかけで気が触れてしまわれたのです。それ以来、うっかり部屋の襖を開けてしまった女性は引きずり込まれて何をされるか分かりません。どうか、あの北東の部屋だけは決して覗かぬよう」
私はまた頷いた。『あることがきっかけ』と言っているが何となく先程の会話で理由は分かってしまったのでこれ以上は追求しなかった。
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