猫のカリスマ

2/2
前へ
/2ページ
次へ
 南君は、今日も公園のベンチで寝そべっている。 南君はつい最近、ホームレスになった。職を失い、とうとう 家賃が払えなくなって、アパートを追い出されてしまったのだ。 南君には多少友達が居たけど、彼を居候させてくれるほど仲の良い友達も居なかったし、だいいち南君自身が、友人の家に居候させてもらうという選択肢を持たなかった。  もちろん携帯も支払いが滞っているから通じないので、友人との連絡は一切とれなくなっている。  南君は早くに両親も亡くなっており、親戚縁者も遠い所に住んでいるので誰も頼る人はいない。私も南君を助けてあげたいのだけど、私にもそんな余裕は無い。 私も日々一日、食うや食わずのギリギリの生活をしているのだ。  南君は職を探すでもなく、日がなベンチでゴロゴロしているのだけど、一つだけ取り柄があった。南君は、猫にとても好かれるのだ。  今日とて、南君のベンチの周りには数匹の猫がタムロしている。  「よしよし、いい子だね。」 そう言って南君が猫の頭やあごを撫でると、猫は気持ち良さそうに目を細めるのだ。南君は猫のカリスマなのだ。餌を与えるでもない南君に猫は夢中だ。 南君になびかない猫などいない。 マタタビの成分でも分泌してるんじゃないかと思うほどだ。  私は南君に恋をしている。でも、私は南君と話したことが無い。 話すことができないのだ。毎日、遠くから南君を見ることしかできない。  そんなある日、南君が私に気付いてくれた。見つめられてドキドキした。 「やあ、君、この辺では見かけない子だね。おいで。」 南君が私に手招きをした。嘘みたい。私は熱に浮かされたように、ふらふらと 南君に近寄って行った。 「君、変わった毛並みだね。女の子か。」 私に向かって言った。南君が私を抱き上げた。嬉しくて私は声を出してしまった。 「ニャー。」 「よしよし、いい子だ。僕と一緒に帰ろう。」 他の猫たちが羨ましそうに私を見た。私はその羨望の視線を受け優越感を感じた。 南君が、私を選んだ。  南君の自転車のカゴに乗り、私は夕暮れの風を受け心地よかった。 橋の下のダンボールハウスに、私を抱いて南君は入って行った。 「はあ、お腹すいたな。じゃあ、いただきます。」 そう言うと、南君は冷たくて熱い痛みを伴う銀色の刃を私の額に振り下ろした。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加