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「お先です」
「橘くん今日もはやいね~」
「今日はちょっと家族と約束してて」
「そうなんだ、お疲れー」
「お疲れ様です」
バイトの先輩は特にこちらを気にした様子もなくいつもの笑顔を向けてきた。
顔に張り付いたその表情の仮面を剥がして見たら本当はどんな顔なのだろうか。きっと今よりいい顔になるだろうな、ふとそんなことを考えていると帰りに花束とケーキを買ってくることを思い出し、空いている店へと向かった。
今日は家族の1日遅い誕生日会をすることになっていた。
家を出るときは何も言われなかったが、皆わかってくれている。
僕のことを理解してくれているのは、きっと今の家族だけだ。
「あれ、橘じゃん!久しぶり」
「え、永野くん?」
ケーキはどれがいいかショーケースに向かい選んでいると、高校の時特に仲が良かった同級生に出会った。
永野くんは高校2年の途中で親の都合で遠くへ引っ越してしまい、そこから会っていなかった。
「お前元気だったか?」
笑顔で話しかけてくる彼は昔から変わっていない。いや、少し大人っぽくなった気がする。
「永野くんこそ、引っ越してから連絡とってなかったし」
「悪い悪い、携帯落として連絡先全部消えちゃったりしてさ、それにお前SNSもやってないし、連絡のとりようがなくて」
そう話す彼は今僕と会ったことに驚きつつも嬉しそうにしてくれていた。
「元気そうでよかったよ」
そう返すと、今度は向かい合っていたケーキの並んだショーケースの方へと視線を向けた。
「今日誰かの誕生日とか?」
「あぁ、うん。家族の誕生日なんだ」
「そうなのか!おめでとう」
「ありがとう。伝えとくよ」
そう言うと、彼はまたショーケースへと視線を戻した。
「お前ずっと悩んでそうだから、俺も一緒に選んでやるよ」
「ありがとう。全部美味しそうだったから悩んでて…」
「はは、そういうとこ変わってないな
高校の時も好きな菓子パンで悩んでて、結局5つくらい全部買ってたよな」
「そうだった?」
楽しそうに笑う彼を見て、高校の頃に戻ったようだった。
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