ゲノムゲイム

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ゲノムゲイム

父さんが、一週間ぶりに我が家に帰ってきた。 父さんは、忙しい人である。 ゲノム編集においては、一流の研究者であったが、ご存知の通り、人の遺伝子操作は、現在ではタブーとされており、表立って研究することは難しい。そこで父さんは考えた。 我が家を研究所にして、密かに研究すれば良いではないかと。 父さんが目指しているのは、人の遺伝子をデザインして、よりエコな人間を作ること。 最小限の食物と水と日光により、人が暮らせる世界だ。 父さんは言う。人間はあまりに、無駄が多すぎる、 息を吸って吐いて、食物を摂取して、栄養にして、余分なものを排出する。 確かに、よく出来たシステムだとは思うけど、もっと余分なものを排出せずに、エコに生きていけないのだろうか? 近い将来訪れるであろう、食糧危機に人間は備える必要がある。 父さんは、DNAの断片を繋ぎ合わせて、完全なゲノムを合成させようとしている。 「お前は、出来が悪いから、父さんが治してやろう。」 そう言って、僕にいろんな注射や、薬を飲ませて実験している。 母さんが三年前に事故で亡くなったあたりから、その実験が始まった。 たぶん、父さんは悲しみのあまり、母さんを蘇らせようとしているのだと思う。 母さんの細胞の一部は、まだ冷凍保存されていて、たぶん僕で成功すれば、いずれ母さんの細胞を培養してクローンを作るつもりなのだろう。 僕が外に出るのを嫌うのも、今の僕の姿にみんなが驚くからだと思う。 僕の細胞は、今変化の途中で、父さんはきっとこの実験を成功させて、完全な人間を作ることだろう。 それまで僕は、ひたすら我慢をするしかない。 一週間ぶりの食事と、カプセルに入った薬が僕に与えられた。 この薬を飲むと、たまに死んだ母さんやおばあちゃんに会える。 だけど、すぐに消えてしまうので悲しい。 母さんは壊れたまま、僕を手招くし、何だか、この薬を飲むと世界がおかしくなる。 でも、きっともう少しすれば、僕は完全な人間になれる。 父さんを信じて、分裂して垂れ下がった肉をベッドに横たえた。
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