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ビールの後に頼んだのは“ポールスター”という名の、細いグラスに注がれたスパークリングワイン。
「ポールスター、って何だっけ?」
英文科を出たはずの私の酔いが回った頭の中の英和辞書は鈍っていた。
つい独りごちた私の声を拾うのは、
「北極星だろ、バーカ」
そう毒づいて片頬を緩ませる対面の宮田。
さほど大きくなかったかもしれない宮田の毒舌を聞き逃さない私の耳はまだたぶん宮田が好きなんだと思った。
「思い出せなかっただけじゃん」
「頭ん中の1個だけの引き出し、ちゃんと整理しとけよ」
「いつもきちんとしてますーぅ!部屋だってちゃんときちんとしてますーぅ!」
あんたが知らないだけでしょう?と言いたくなった喉にスパークリングワインを流し込んだ。
あの日から言われた通りに片付いている部屋に宮田が来ることは無いし、これから先もそれを見せるチャンスも無いと気づき、もう一度スパークリングワインを口に含んだ。
「引き出しが1個だけってのは否定しないんだ」
佐藤さんのあははと笑いながらのツッコミに、ハッハッハ!と中野さんが高笑いした。
あ、今日初めて中野さんの声を聞いたな、と思ったその時。
「雑なんだよお前は」
宮田はチーズフォンデュのセットで頼んだ1口サイズのバケットを指で潰しながら低く呟いた。
「何でもかんでもごちゃ混ぜにしまい込むから、別の何かを探してる時に思い出したくなくてもふと目について、勝手に気が滅入ったりするんだろ?」
何よそれ。
「まぁ、俺もなんだけどね」
……何よ、それ。
「ごちゃ混ぜで、考え過ぎて、もう何がなんだかわかんないんだよね」
…………何なのよ、本当に。
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