223人が本棚に入れています
本棚に追加
「暑気払いしようって話しててさ。大谷も来ない?」
そう誘ってきたのはマーケティング部の松野さんだった。
6月の中間決算が滞りなく終わり、飲みたい気分ではあった。
「いつ?」と聞いた私に松野さんは「ミヤも来るよ?」とニンマリと笑ってから「飲みは今夜だよ」と付け足した。
最近はまともに顔を見てなかった。
語尾の伸びた話し方だって、喉を鳴らすような笑い声だって、うまい切り返しも毒舌も、聞いていなかった。
もっさりしてきた髪は切ってしまっただろうか。
………今宮田を見たら、せっかく治まってきた熱がぶり返すんだろうか。
それとも、きちんと過去という引き出しに片付けられ、何の感情も湧いてこないんだろうか。
どっちにしても、あの日から既に1ヶ月は経とうとしている。それを確認すべきなんだろうか。
答えに迷う私に「じゃ、定時にあがれるように仕事すっか!」と片手を挙げて消えていく松野さんを、憎たらしい気持ちとちょっとの感謝の気持ちで見送って自分のデスクに戻った。
最初のコメントを投稿しよう!