POST IT

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やって来たのは、アットホームな雰囲気の、イタリアンレストラン。 そば粉のガレットと、チーズフォンデュが美味しいと評判のお店だ。 案内されたのは、長方形のテーブルをコの字型の椅子で囲んだ席。 「ハイハイ、座ってー」と松野さんが私の背中をトンと押したせいで、端っこに座った佐藤さんの横に腰を下ろすことになってしまった。 中央部分には松野さんと中野さん。そして、私の正面には千葉さんが腰かけ、その隣、私の右斜め前に宮田が背中を丸め静かに腰を下ろした。 グラスを重ね、大きな仕事を終えた互いの労をねぎらい、洒落た料理に舌鼓を打つ。 松野さんはいつも店選びを外さない。今夜連れて来てもらったココも、それなりに賑わっているというのに、真横の席の女子会らしき会話は聞こえてくることはなく、こっちも安心して仕事の話も馬鹿話も心置き無く楽しめそうだ。 「あ、そう言えば!住むとこ決まった?」 私を見て聞いてきた松野さんの目は既に赤らんでいた。 「えー!大谷、引っ越すの?もう?」 チーズフォンデュに付いてきた変な形のフォークを齧り千葉さんがびっくりした顔をした。 美味しいお店も詳しけりゃ、住み心地の良さそうな街にも詳しい松野さんに相談していた私。 「うん。更新するんなら新しいとこで心機一転しようかなって思ってさ」 “心機一転”と聞いて、どう思う? 千葉さんの隣の宮田は一瞬眉をひそめたけれど、すぐにいつもの熱のない表情に戻って、ろくに食べもせずに口元へグラスを運んでいた。
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