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「あれからもう2年かー」と、佐藤さんが懐かしんでいる。
入社してからずっと実家から通っていた私が、弟夫婦が転がり込んで来たのを期に一人暮らしを始めたのが2年前。その引っ越しを手伝ったのをここにいる6人全員が今各々の記憶の中で思い出してるみたいだ。
「あん時さー」
「あん時?」
「ほら、冷蔵庫が入りそうで入らなくってさ」
「あぁ!アレねー!」
「ソレよりもさー、おれは佐藤が蕎麦に山葵入れ過ぎて………」
「あ、ソレ、俺もすっげー覚えてる」
共通の思い出のはずなのに、強く刻まれているのはそれぞれで違っているみたいだった。
千葉さんと松野さんの一番の記憶は、入れすぎの山葵にむせる佐藤さんで、
その佐藤さんは部屋に運ぶのに苦労した冷蔵庫のことらしい。
中野さん、は何も喋らず変なフォークでカブにチーズを巻き付かせて、そのフォークのままサーモンとアボカドのサラダを食べにくそうに口に運んでいた。
………思い出してるんだろうか、宮田はあの引っ越しの時のことを。
盗み見た宮田は、泡の消えかかったビールをちびちびと飲み、盛り上がる昔話に耳を傾けるだけで、やっぱり何を考えてるのかは読み取れなかった。
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