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私は。
私が思い出すのは、
『オレ、腰弱いんで』
そう言い放って力仕事を4人の男性に任せていた宮田だ。
だったら何故手伝いに来た?と言おうと思えば言えたかもしれないけれど、せっかくの厚意にそれは失礼だと思ったし、
『だから奈々の横で出来ることすっから指示ちょうだい?』
と申し出てくれた宮田から香る煙草と石鹸の混じった香りに思いがけず心臓が跳ね上がったし、
『永遠にブラとパンツを畳んでいたい』
と言われ、そんなに持ってないし勝手に段ボールを開けないで!と腕を思い切り叩いた時のくしゃっと笑った同期の横顔に恋をしたなんて言えなかった。
そして、
『その分労働時間長くすっから』
と言って帰った翌日、実は1人で部屋の片付けに来てくれた宮田。
『Tシャツの畳み方綺麗なのにそんな雑にしまったらシワシワになるぞ?』と笑われ、
『洗面所の下のココ!物を突っ込んでるだけじゃん!百均行ってなんかカゴとか買った方が良くない?』と買出しに連れ出され。
初めて二人っきりで過ごしたあの部屋を出るのはどこか寂しい。
だけど、告白が無様に終わった今、
髪を切って綺麗な思い出に変えられるほどの軽い気持ちじゃない。
環境を変えて、気持ちを切り替えたい。
幸いにも宮田とは課も違うし互いの連絡先は知らないままだ。
今度こそ、ちゃんと忘れられる。
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