第一章 嘘

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 自分の書いてる小説の続きを、より魅力的にするために、変哲もない方眼ノートにぽつぽつとアイデアを書き込み始める。思いついた言葉だとか、これから出すキャラの原案だとか。  傍から見るとノートにメモを取っているようにしか見えないから、先生から変に目を付けられることもない。 (んんんー)  耳元の髪を指でくるくるしつつ、熟考モードに入る。さりげなく窓際のほうに視線を向けると、その先には咲夜日織。  真面目に黒板を見ながら板書をうつしている。授業中に小説のネタ出しするなんて馬鹿な真似はしませんよーみたいな、澄ました顔をして。 (…………)  あいつ、いま何考えてるんだろう。 「おい、どこ見てるんだ」 「いてっ」  気が付けば先生が俺の目の前まで来ていて、出席簿で頭を叩かれた。  俺の方眼ノートが覗き込まれる。  「氷河、授業に関係ないことをノートに書いてるんじゃない。集中しなさい」 「だからって叩くことなくねえ!?」  やべ、ばれてんじゃん。慌ててノートを手で隠した。 「まーたやってるよ氷河」 「うけるー」  教室にクスクス笑いが起こる。 「いーんですよ別に、俺は頭いいからノートとんなくても授業ついてけんの」  俺が馬鹿にしたみたいな顔をするので先生が溜息をつく。 「まったく、これで赤点取ったらただじゃおかないからな」  同時に同級生たちの小声が俺の耳に入る。 「調子こいてるねぇ氷河くん」     
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