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「もう少しで、キミともお別れなんだね」
不意にそんなことを言う彼女。
「うん、そうだね。祭りが終わったら帰らなきゃいけないし」
違う。そうじゃない。彼女はそんなことを言っているわけじゃない。
だけど、それをすんなり受け入れられるほど、今の俺には心の余裕がない。
俺はまだ彼女に自分の気持ちを伝えていない。
五年前のあの日からずっと、胸の奥にしまったまま。
もう一度チャンスがあったらと、そんな未練たらしいことを考えていた。
だけど、いざ彼女に再開してみるとどうしてもその勇気が出ない。
彼女の返事を聞くのが少し怖いというのはもちろんだが、それよりも後のことを考えてしまうと急に切なくなってくる。
「でも、せっかく会えたんだから、お祭り楽しもうね」
そんな彼女の作る笑顔に、どことなく陰りを感じた。
この日は、帰ってから夕食と風呂を済ませるとすぐに布団に横になった。
気が付けば彼女のことを考えてしまう。
うまく言い表せないが、頭の中がごちゃごちゃしていて、胸がもやもやする。
このまま彼女との時間を過ごしたとして、最後はどうなっているのか。
なんとなく察しはついていた。
だとしたら、もうそれほど時間はない。
あの頃伝えられなかったことを、彼女に伝えたい。
たとえこの先にどんな結末が待ってようと、それだけは伝えておきたい。
決して悔いの残らないように。
『――どうして海が好きなの?』
『――どうしてだと思う?』
『――そんなの、わかんないよ』
『――ヒントはね、キミだよ』
『――えっ、どういうこと?』
『――さぁ、あとは自分で考えてよ』
正直、全然わからなかった。
しばらく考えてみたけど、やっぱりわからなかった。
あの頃の俺は鈍感だった。
でも今なら多分、わかる気がする。
それはきっと、お互いがそれぞれの気持ちに気付いていたから。
だから余計に言えなくて、言いたくなくて、別れがつらくなることを惜しんでいたんだ。
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