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「うん、戻ってきちゃった」
彼女に連れられてついた先は、いつもの砂浜だった。
「確かに人はいないけど、こんなとこから花火見えるの?」
「大丈夫。伊達に何年もここにいないからね」
少し冗談っぽい笑みで、自慢げにそんなことを言う彼女。
それから間もなくして、花火が上がり始めた。
「きれいだね」
「ね、ちゃんと見えるでしょ?」
「うん」
しばらく無言のまま、夜空に打ちあがる花火を眺めていた。
「ねぇ、そういえばさ、覚えてる? キミが私に、どうして海が好きかって聞いたこと」
「覚えてるよ。でも結局教えてくれなかったよね」
「ヒントはあげたよ。で、わかった?」
「うーん、ちょっと自信ないなぁ」
彼女が海を好きな理由。ヒントは、俺。
わかったような、わからないような。
自分で言うのは自意識過剰な気がするし、何より恥ずかしい。
それにまだ、俺は彼女と一緒にいたい。
言ってしまえばそれで終わり。何もかもすっきり解決。
なんて、人の心はそんなに単純ではない。
だからこそ悩んで、苦しんで、でも嬉しくて、切なくて。
幾重にも感情や気持ちを折り重ねて、自分が納得できる答えを見つけるんだ。
「仕方ないなぁ、じゃあ――答え合わせしよっか」
彼女がそう告げる。
「実はね、最初は海、そんなに好きでもなかったの」
知っていたよ。だって君、初めはすごくつまらなそうな顔をしてたから。
「昔はすごく口下手でさ、友達とかもあんまりいなかったの」
君はいつも一人だった。海を眺める後姿は、いつもどこか寂しげだった。
「でも、あの場所でキミに初めて声をかけられて、それからだんだんキミと会うようになってさ。次はいつキミに会えるんだろうって、そんなことを考えながら海を眺めてたら、なんか気づいたら好きになってたみたい」
俺も同じだ。君に会いに行くのがだんだん楽しみになっていた。
「それから、自分の本当の気持ちに気付くのに、全然時間はかからなかった」
そのまま彼女は言葉を紡ぐ。
「私ね、ずっと、あの日からキミに伝えたかったことがあるの」
「俺も、あの日からずっと君に言いたかったことがあるんだ」
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