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道路沿いの海岸。陽の沈みかけた海。
小さな砂浜で夕日を背に彼女は言う。
『明日、学校が終わったらこの場所きてね。伝えたいことがあるの。約束だよ――』
もともと予定していた転校が急に前倒しになり、俺は結局その場所に行けなかった。
それから半年後。
仲の良かった地元の友達から、彼女が交通事故で亡くなったという知らせが入った。
それからもう、俺は一度もその場所に訪れていない。
大学が夏休みに入り、五年ぶりに地元の田舎に帰ってきた。
ここは昔俺が住んでいた町だ。
道路沿いの海岸と、小さな砂浜。ザザー、という波の音以外に音はない。
静かな場所だ。
そんな道路のわきには、花束が置かれていた。
そう、今日は彼女の命日だ。
彼女は五年前にここで交通事故にあって、亡くなった。
特別仲が良くて、実は彼女に惹かれていた。
それだけに、その事実が俺の心にぽっかりと穴をあけてしまっていた。
俺がまだ中学生だった頃、ここで彼女と約束をした。
だけど俺はその約束を守れなかった。
あの日、彼女は俺に何を伝えたかったんだろう。
もしかしたら……なんて、そんなことを何度も考えていた。
今でも多少引きずってはいるが、さすがにもうそういうわけにもいかない。
けじめをつけるために、俺はこの場所に帰ってきたんだから。
用意していた花束を添えてから、砂浜に足を運んだ。
「なつかしいな……。小さい頃はよく遊んだっけ」
彼女はよく、この砂浜から海を眺めていた。
白いワンピースを着ていて、靴も靴下も脱いで砂浜に置きっぱなし。
長い黒髪を風に揺らして、ただただ海を眺めていた。
そう、あんな風に――
「……え?」
そこに、彼女がいた。
いるはずのない、彼女がいた。
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