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どうしよう、冷や汗が止まらない。
「なーんてね。そんなわけないっか」
そう言って彼女は冗談っぽく笑う。
そんな彼女の言葉に、安心したような、でもちょっと残念なような気持になった。
「あ、そうだ。キミはいつまでこっちにいるの?」
「ああ、えーっと、来週には帰るつもりだけど」
俺がそう答えると、彼女は何か思い出した様子で言う。
「あっ、じゃあさ、せっかく帰ってきたんだし、私と一緒にお祭り回らない?」
「祭り?」
「うん。ほら、街の方でさ、いろんな屋台が並んでて、おっきな打ち上げ花火とかあがっててさ」
「あぁ……、そういえばあったね。うん、思い出した」
懐かしい。学校の男友達と回った記憶がある。さすがに女子と一緒に回るなんて素敵イベントはなかったけど……。
「で、どうかな? ちょうど来週のお休みにあるんだけど」
無論、断る理由もない。
「うん、もちろん。でも大丈夫なの? 君、幽霊だよね?」
「大丈夫。私から話しかけない限り、向こうは私に気付かないみたいだから」
どうやらその状態にはもう慣れているようだ。
それもそうか。もう、あれから五年も経ってるんだから。
「ん? あれ、さっき最初に話しかけたのって俺だったよね?」
ふと何かが引っかかった俺は、今しがた彼女が言ったことを頭の中で何度も反復させる。
「え? そうだけど……あっ」
彼女も気づいたようだ。
「俺、最初から気づいてたんだけど」
「そうみたいだね。なんでかな?」
「さ、さぁ?」
別に、特別霊感が強いとかではないはずなんだが。
「まぁ、別にそんなこと気にしなくてもいいや。むしろ、キミの方から気づいてもらえてよかった」
そう言ってまた笑顔を見せる彼女。
そんな彼女の表情と言葉に、また胸を高鳴らせた。
やっぱり俺は、まだ彼女のことが――
「ねぇ。ねぇってば」
彼女が俺の顔をのぞき込んでいた。
って、顔が近い。
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