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「久々だなあここ」
テナントも随分入れ替わってる。映画館の前なんてほとんど違うんじゃないか?さすがにアニメのグッズショップなんかは規模が大きいから残っているが。
「オススメのお店とかある?」
「いやあ、この辺りに来るといえばだいたいがカラオケかゲームセンターだったからな」
あいつがもっと女の子らしかったなら、国東の力になれたかもしれないが、残念だ。
「まあ、適当に歩いて気になったところに入ったらいいんじゃないか?」
「どう?」
数分ほど歩いて、とりあえず見つけた服屋に入った。僕も国東も服には無頓着だし、どの店がいいかすらわからなかったので、本当にとりあえず、服屋に入るしかなかった。
「似合うと思うよ」
「そればっかり」
そればかりといわれても、僕にセンスはないし正直よくわからない。国東は無愛想だが顔立ちは整っていて、無難な服なら違和感なく似合っていた、ように思う(途中持ってきたチャイナ服は似合うが却下)。
「じゃああなたが選んでよ」
無茶いうなと抗議したが、結局女性服のコーナーを歩き回されている。周りの視線が刺さってなんかチクチクする。
割と国東がなんでも着こなしてしまうのと、僕がファッションセンスを母胎に忘れてきてしまったせいで、どれもこれもピンとこない。
この際適当に選んでやろうかとも思ったが、それを着て大学に来て変な空気になったらこっちがいたたまれない。逆に、近寄りがたい国東を和らげる材料に化けるかも知れないけどな。
そんなひねくれたことを考えていると、ある服に目が止まる。真っ白なワンピース。国東の庭の華やかさとはベクトルが違うが、美しい。
似合うだろうとか、その服がおシャレだとか、そんなんじゃない。純粋に、それを着た国東を見てみたいと思った。
「これとか、どう、かな」
いざ提案するとなると滅茶苦茶恥ずかしい。言葉は詰まるわ、台詞は尻すぼみするわ、散々だ。
「ふぅん」
まじまじと僕の顔を見てくる。いや、見るならこのワンピースだろうよ。
「どうしてこの服を選んだの?」
どうして、か。素直に答えたら変な誤解を生みそうだし、何より僕の毛細血管が恥ずかしさで気化して死んでしまう。何か適当な理由を──
「──、お前の名前の花の色だよ」
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