事の発端

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夏休みに入る一週間前となった今日、いつもと変わらない学校から駅までの道を、少しだけ変えてみた。 1本隣にある狭い脇道に入るだけで世界が少し変わって見えた。 石の塀で両側を遮られた細い路地。青春映画で、主人公が猫と戯れていそうだと何となく思った。木の枝が屋根代わりになり、木漏れ日が優しく落ちている、なんとも言えない綺麗な場所。 少し遠回りになってしまうが今度からこの道を使おうと思った矢先、私の意識を全て持っていくものを見つけてしまう。 穴 真っ黒な穴が私の前にある。マンホールの穴や落とし穴などでは、然程意識を持っていかれることは無い。これはこの場所……否、この世界では異質すぎる。 と表現した方が正しいだろうか。 私程度の大きさの人間なら、そのまま歩いて通れてしまうような縦穴が、道の真ん中で真っ黒な口を開けているのだ。 こんなにも非日常で、並の人間では出来るはずのないことが今、目の前で起こっているのだから、意識が全てこちらへと向いてしまうのも当然だろう。 しかも、この狭い路地の先へと行かせないようにしているのだから。 私は、この中に入れと言われているような気がした。 中に入ったらどうなってしまうのかと想像する恐怖よりも、この先には何があるのかという好奇心の方が勝ってしまう性格の私は…… 何時もより少しだけ速い足取りで、穴の中へと入った。
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