すれ違う笑いのツボよりも愛は深く――

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 31日の大晦日は毎年『笑っちゃいけない!』というバラエティ番組を和臣と一緒にソファに並んで座りながら見ていた。  午後6時半から始まるので早めに晩ごはんを済ませ、素早くお風呂も入り、目の前のテーブルにはジュースとスナックお菓子を用意して、番組が始まるのを今か今かと待っていた。 「今年のネタはメキシコ警察24時になってるけど、イマイチ想像がつかないよね」 「ああ。捜査能力ならアメリカが一番と言われているのに、あえてそれを回避してメキシコを選ぶあたりは、テレビ局として徹底的に笑いを取ろうとしているんだろうな」 「捜査能力についてなんて、恭ちゃんってばよくそんなことを知ってるね。他の国の警察なんか全然興味ないから、今回の企画についても未知数だよ」  大きな瞳を瞬かせながら、俺を見つめる和臣の視線に応えるように、ニッコリとほほ笑みかけた。 「たまたま見た特番からの知識だよ。DNA鑑定を最初に手掛けたのが、アメリカとイギリスの警察だったんだ。そのノウハウを日本の警察が学んだんだってさ」 「へえ。アメリカと言えば、FBIがあるから優秀かなって思った」  自分の話にノってきた和臣との会話のお蔭で、番組を待っている時間が短く感じられた。 「凶悪犯罪に立ち向かうSWATも配備されてる。日本ではSATやSITという特殊部隊的なものがあるけど、アメリカのように強襲拘束や射殺ができないから、対処能力は先進国最低らしいぞ」 「先進国最低ってテロみたいな大きな事件が起きたら、大変なことになりそうだね」 「だよなぁ。ベースが平和国家だから、和臣が言った事件が起きたらどうなることやら。あっ、ちょうど始まった」  CMから切り替わったテレビ画面に大きな文字で『笑っちゃいけない!』が映し出された。 「僕、今のうちにトイレに行ってくる」  言うなり、ソファから立ち上がった和臣。これも毎年の恒例行事の一つになっていた。 「トイレに行っといれ」 「恭ちゃん、もう少し笑えるギャグを言えるようになれたらいいのにね」 「番組より先に、笑わせるつもりはない」  早く行けと言わんばかりに手を振ったら、呆れ顔した和臣は肩を竦めてトイレに向かった。  一応毎年の恒例行事になっているこれに対抗すべく、ギャグを考えているのだが、いかんせん上手くいった試しがない。
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