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厚い雲の切れ間から傾きかけた太陽が覗いて、海に反射する。
波打ち際ではさっきのカップルがまだじゃれ合っていた。
突然、叶がタタッと海に向かって走り出した。
「チクショー! バカヤロー!」
大声で海に叫ぶ叶のスニーカーを波が洗う。
海に向かってバカヤローと叫ぶなんてベタ過ぎるよ。見ているこっちが恥ずかしくなって、私は思わず両手で顔を覆った。
カップルもクスクス笑いながら、行ってしまった。
「叶!」
呼んだのに叶は振り返りもしないで、海を見ている。波が結構高いから、聞こえなかったのかもしれない。
「かーなーうー!」
お腹に力を入れて、部活の時に出すような大きな声で呼んだのに叶は背中を向けたまま。それが何だか私を拒否しているみたいに見えて悲しくなった。
足元に気をつけながら、砂を踏みしめて叶の方へと歩いた。
私が隣に立つと、やっとこっちを見た叶の表情は見たことがあるものだった。
みんなが必死でボールを繋いだのに、自分のミスであっさり試合に負けた時みたいな顔。
「まだ間に合うよ、きっと。里保にやっぱり好きだから付き合いたいって言えば?」
叶のそんな顔を見たくなくて言ってしまった言葉に、心の中でため息を吐いた。
「俺は! ……いや」
言いかけて止めた叶は、手の中のスマホをギュッと握りしめた。
あれ?
「里保と付き合ってないのに、寝顔を撮ったってどういうこと?」
里保は私と違って授業中寝たりしないし、そもそも校内は携帯使用禁止だし。
「別に……どうだっていいだろ?」
「え? 叶?」
突き放すような言い方は叶らしくなくて、戸惑った私は叶の顔を見上げた。
「おまえさ、もう俺のこと、叶って呼ぶのやめろよ。室井に悪いだろ?」
「なんで?」
「彼女が自分以外の男を呼び捨てにしてたら嫌だろ」
「彼女って誰が?」
「は? おまえだろ?」
「は?」
わけがわからなくて見つめ返すと、叶の目が大きくなった。
「え? 違うの? 告られて室井と付き合うことにしたんだろ?」
「まさか! 断ったよ。室井くんなんて好きじゃないもん」
「は?」
「だから! そんなに驚くこと? 私が男を振るなんて100年早いとか言いたいんでしょうけど」
「いや、でも、真尋は室井に気があるみたいだって……」
叶の声が尻すぼみになって消えた。
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