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「バカだ、俺。室井に牽制されて、騙されてたのか」
「騙されてた? あ、そうだ。叶が里保と交際始めたんだって言われた私も室井くんに騙されたってこと?」
「うん。……それだけ室井も必死だったんだな。そんな嘘、すぐにバレるのに」
「でも、その嘘を信じて、私、もう叶とは距離を置こうと思ってた。里保に悪いから」
「そんな!」
「いつかはそんな日が来るだろうけど、私はもう少しこうやって叶の親友をやっていたい。こんな遠くまでチャリ飛ばして、海に叫んだりしてさ」
二カッと笑った私に、叶もそうだなって言ってくれると思ったのに、叶はスマホを私に突きつけた。
「これが俺の好きな子。この間の試合の帰りのバスで爆睡してるところを撮ったんだ」
壁紙の女の子は、口を開けて寝ている私だった。
「よくも勝手にこんな写真撮ったわね?」
恥ずかしさと嬉しさで顔が熱い。
「俺は真尋と離れるなんて嫌だ。ずっと一番近くにいたい。親友兼恋人になりたいんだ」
叶は耳の先まで真っ赤にして、そう言ってくれた。
あの占いには何て書いてあったっけ? 『悔いの残らぬよう素直になって』か。
「うん。私も叶の恋人になりたい。それで、せめて口を開けてない写真にしてよ」
私の身体をギュッと抱きしめた叶の手はぎこちなくて、火傷しそうなほど熱かった。
「雨、降ってきそうだ。急いでモールに行かないと」
砂浜から道路に戻る階段で、私の手を引いてくれながら叶が言った。
せめて自転車のところまで、手を繋いでいたいなと思う。
「もう宝くじは買わなくていいや」
そんな私の言葉に叶の足がピタッと止まった。でも、手は繋いだまま。
「なんで? せっかくここまで来たのに」
「だってもう、一年で一番の日になったから」
私が笑うと、叶は照れたように呟いた。
「バーカ。一生で一番の日だよ」
END
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