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「付き合い出したって何だよ。手が早いって? 意味わかんねぇ」
叶のムッとした声が聞こえたから、私も岩を移るのをやめて向き直った。
「里保と付き合ってるんでしょ? そういうことは早く言ってくれないと困るよ。私が何も知らずに2学期になってたら、『私の彼氏と仲良くしないで』って里保に文句言われてたかもしれない」
驚いたように目を見開いた叶は、すぐにキュッと真一文字に口を結んだ。
「付き合ってなんかない」
「は? だって告られたでしょ? 交際始めたって室井くんも言ってたよ?」
「告られたけど断った。室井だって、それ知ってるのに」
「断った? え、なんで?! もったいない!」
「もったいないって何だよ。おまえ、俺があいつと付き合った方がいいのか?」
「だって、あの里保だよ? あんな綺麗な子なんてなかなかいないし、叶だって好きだって言ってたじゃない」
「言ってない。そんなこと一度も言ってない」
眉間にしわを寄せてキッパリと言い切る叶の顔を、呆気にとられて見た。
「よく言うよ。室井くんに『真尋なんかよりも佐藤さんの方が美人だ』って言ってるの聞こえてたよ? 両想いになれたのに、なんで断ったりするのよ」
「あれは! 室井に佐藤さんを勧めてただけだ」
「叶って変なところ控えめだよね。なんで最初から諦めちゃうの?」
ふいにキャーッという悲鳴が砂浜から聞こえたのでそっちを見ると、さっきのカップルの女性が浅瀬で尻もちをついていた。
男性が笑いながら手を差し伸べて女性を立たせてあげるのを、叶も黙って見ていた。
「ねえ、もしかして勘違いしてる? 室井くんが好きなのって里保じゃないよ? 遠慮なんかしなくていいんだよ? 好きなら友達に譲ったりしないで、自分が付き合えばいいのに」
「好きな子を譲ったりはしない。そんなこと死んでも出来ない」
カップルに目を向けたまま、叶が怒ったように呟く。
私はわけがわからなくなって、眉間にしわを寄せたまま岩から下りた。
「なんで室井の好きな子が佐藤さんじゃないって知ってる?」
「え……だって。……告られたから」
「ええ!?」
そんなに驚かなくてもいいのに。私が男子にモテるなんてあり得ないと思ってる?
「室井くんから聞いてなかった?」
「聞いてない。……そうだったんだ」
伏せられた叶の目がスッと海へと向いた。
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