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高校2年の夏休みだからって、家族で旅行に行くわけでもない。年子のお兄ちゃんが受験生だから。
クラスの友達は海だプールだと計画していたけど、お盆以外毎日部活のある私は当然パス。
だから、高架橋の手前で下の道に進んだ私たちは、坂道の向こうに光る海を見つけてテンションが上がった。いや、上がったのは私だけか。
「うーみーだー!」
「叫ぶな。恥ずかしい」
「だって、海だよ! 潮の匂いが」
「全然しない」
そうだけど!
「それに真尋。ショッピングモールはあっち」
海に向かって走り出そうとした私に、叶は呆れた顔で左の方向を指差した。
「え? こっちじゃないの?」
「海にショッピングモールがあるか! あっち」
「えー。じゃあさ、ちょっと海に寄ってからモールに行かない? ね?」
仕方ないなと言わんばかりのため息を吐きながらも、自転車の向きを海の方へ向けてくれた叶は、やっぱり優しい。
彼女になった里保には、叶はきっともっと優しくしてあげるんだろうな。
チクチクする胸の痛みを吹き飛ばすように、私は坂道を猛スピードで下りて行った。
弓道場裏の告白シーンは途中で逃げ出したから、叶の返事は聞いていない。
もしかしたら他の子たちに断っていたみたいに、里保にも「俺、好きな子がいるから」って言って断ったかもしれない。
そんな希望にしがみつこうとした私はバカだ。
叶の好きな子は里保なんだから、断るわけないのに。
でも、もしかしたらって思わずにはいられなかった。
「麻生の奴、佐藤里保と付き合い始めたんだって」
終業式の夜、お兄ちゃんにジャンケンで負けて、コンビニにアイスを買いに行った私は、バッタリ会った室井くんにあっさり希望を打ち砕かれた。
叶は男バレの中で室井くんと一番仲が良いから、里保に告白されたこともOKしたことも話したのだろう。
「そうみたいだね」
冷静を装ったけど、動揺していることはバレバレだったみたいだ。
先週、室井くんに告白された時、私も叶みたいに「私、好きな人がいるから」と言って断った。
「誰? 麻生?」って突っ込まれるなんて思いもしなかったから。
「麻生のことは諦めて、俺を好きになってよ」
「叶を好きな気持ちは簡単には消えないし、すぐ他の人へ気持ちを切り替えることなんて出来ないよ」
たぶん、叶を想う気持ちはずっと消えないと思うんだ。
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