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「てめえ、何しやがる……!」
前方の男に胸ぐらを掴まれ、身体から血の気が引いていく。マスクの中で口が勝手に叫んだ。
「さ、さわるな! 離せ!」
「なんなんだよ、このリーマン!」
「は、離せ! さわるな……! 頼むから……」
みぞおちに拳を入れられ、息が止まる。
「ったく。財布だけ出せば、痛い目に遭わずに済んだのによっ」
ケホ、と咳き込んで身体を折ると、頭上から膝で蹴り落された。受け身を取る間もなく、和希はその場に崩れ落ちた。
生まれて二十八年、喧嘩の一つもしたことがない。砂利敷きの遊歩道にあっさり伸びた和希を少年たちが足で転がした。
「なんだよ。口だけか」
身体を探られ、上着の内ポケットから財布を抜かれた。人の手がふれる感覚に、冷や汗が背中を伝う。
鳥肌が立ち、ガチガチと歯が鳴った。
「威勢よく逆らったくせに、震えてんのか」
「弱いくせに、バカなオヤジ」
「どんなツラしてんだか、見とくか」
マスクと眼鏡が外され、適当に投げ捨てられた。
「ん?」
和希の顔を見た二人が、意外そうな声を上げた。
「地味な恰好してるから、もっとおっさんかと思った」
「何これ? ずいぶん綺麗な兄ちゃんだな。イケメンかよ」
「美人つったほうが、合ってんじゃね? 女みたいに細いし」
うひひ、と下卑た笑いを発した後、一人が言った。
「テルさんが、好きそう」
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