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かつてC組で話題になった『平凡俺氏、異世界ではチートの模様』は、主人公の伊豆谷清龍が敵役のヒエゾに捕まった所で更新が止まっていた。
作品内の時間経過が比較的現実世界とシンクロしていたせいもあって、最初のうちは演出としてわざと放置していたのかと皆思っていた。
「一週間以内に援軍を連れてこい」
ヒエゾが伊豆谷の仲間に放ったこの言葉も、彼らの推理を後押しした。
が、一週間どころか一か月たっても、物語は進まなかった。
やがて、徐々に『俺チート』に見切りをつける人が出てきた。無理もない話である。マイノベラーには何十万という単位の小説がアップされている。他に面白そうな話は、いくらでも探せばあるのだ。
「俺としたことが、流行に乗り遅れたな」
「元々C組でしか流行ってないんだから、そんなに気にしなくてもいいだろ」
「そうはいかん。トレンドに鈍感な高校生なんて、それだけでダサいじゃないか」
「じゃあ何で俺が薦めた時に読まなかったんだよ」
「うぐ!そ、それは、だな……」
大輝は言葉に詰まり、視線が泳ぎだした。あからさまにわざとらしい仕草でキョロキョロしている。
そこへ、吹奏楽部の女子が数人こてまるに入ってきた。怪しい素振りの大輝と目が合い、思い切り苦笑いされる。
「お前、何やってんだよ、マジで」
「うぐぐ……あ、そうだ!綾乃ちゃんはどうしてる?もう向こうに着いたのか?」
「もう少し自然に話題を切り替えられませんか、大輝さん」
「敬語ヤメテ」
綾乃は、終業式があったその日に家族でハワイへ出かけていた。
「さすがにもうあっちにいるだろ。旅行中はラインのやり取り出来ないから俺も良く知らないけど」
「え、海外でもライン繋がるだろ?」
「通信料いくらかかると思ってるんだよ。それに、旅行中はカメラ以外の機能を使うなって親から言われてるらしいし」
「何で?」
「家族の時間をもっと大切にしろ、ていう事みたい」
「ふーん……あ、やべ!焦げてる!」
「え!?」
ふたりは急いで鉄板からお好み焼きをサルベージした。しかし時はすでに遅く、裏面は無残なほど真っ黒になっていた。
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