本屋さん

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「卒業したら結婚してほしい。」 翌日、改めて僕は加奈恵に告白をした。加奈恵は一瞬引き気味だった。 でも、既に僕の欄が記入された婚姻届を見ると加奈恵はとても驚き、ボロボロと大きな涙を流した。 「本気なの?病気のことも、好きなのも。」 「僕はいつだって本気だよ。」 「結婚したって、死んじゃうんでしょ。私そんなの耐えられない。」 「約束する、僕は加奈恵より先には死なない。加奈恵のことも死なせない。僕たちはおばあちゃんおじいちゃんになって、僕は加奈恵が幸せだったよって言って先に死ぬのを看取ってから、後を追うよ。どんな治療でも受ける、仕事も頑張る。だから、僕の傍にいて欲しい。」 「バカ……。ほんと、アンタってバカね。やっと告白してくれたと思ったら病気だなんて……。でも、そんなことも含めて一緒にいてあげられるのは私しかいてないでしょうね。」 約束通り僕たちは卒業後婚姻届を出し、夫婦となった。 加奈恵には就職を取り消してもらい、近所の介護施設でパート職員として働くことになった。 そして僕は病院のそばにある会社へ就職した。 本格的に治療を始める前に僕は二人の子どもを宿せるよう自分の精子を凍結保存し、毎日治療にも専念しつつ加奈恵の為に働いた。 途中趣味で書き始めたあの本屋での話を小説にするとそれが話題となり、近日映画化することにもなった。 間もなくして僕たちはマイホームを購入し、加奈恵は小さな命をお腹の中に宿した。 自営業を始め、僕は自分の負担にならない程度に頑張り加奈恵にも手伝ってもらった。やがて働いてくれる人も増えて無理することもなくなった。 加奈恵はとても可愛い女の子を出産した。目元は僕にそっくりなのに、全体的には加奈恵にそっくりで、僕は立会いの中で号泣してしまった。 僕達の間に生まれた子は"未来"と名付けた。 僕がかつて見たあの本屋さんは、もう道がわからなくて行けなくなってしまった。 あの時見た本の内容とは違った僕の人生は、これから先もどうなるのか全くわからない。 ただ一つ言えるのは、十年過ぎた今でも僕は生きていて、加奈恵も生きている。 当時望んでいた僕の夢は現実になり、隣には愛する加奈恵がいて可愛い子どもと三人で暮らしている。 僕はまだ僕の夢物語を書き続け、最高のハッピーエンドにできるよう筆を持ち続ける。 The end.
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