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初めて通る道は木が立ち並び、木陰が僕の汗を冷ました。
しかしセミの音は相変わらず煩くて僕はため息を吐いた。
「あれ、ここ、どこだ。」
ふと気がつくと僕は知らない道を歩いていた。
古い民家が立ち並び、まるで迷路に迷い込んだ感覚に陥った。
「まあ、たまにはこんなのもいいだろう。」
少し歩くと、真っ赤な屋根の不思議な建物を見つけた。何が不思議なのかは分からないが、とても人を引きつける何かがそこにあった。
近くまで寄ってみると、大きな窓ガラスからたくさんの本棚が並ぶのが見えた。
木で出来た可愛らしい扉のドアノブには、OPENと書かれたメッセージボードが掛けられていた。
本屋さんなのだろうか。どうせ暇だし、寄ってみようか。
僕はドアノブに手をかけ開く。ドアはぎいっと木の擦れる音を出して開いた。
「あら、いらっしゃい。」
ドア入口付近にあるカウンターの裏で、椅子に座っているおばあちゃんが僕に声をかけた。
見た目八十そこそこというところだろうか。鼻が高く、優しい目をしたおばあちゃんは僕の方を見てニコニコと微笑みかけてきた。
「なにか探し物かしら。」
「いや、特に探し物があるわけじゃないんですけど……。」
そこで僕は不思議なことに気が付いた。
沢山立ち並ぶ本棚に並べられた本は、分厚さ等はバラバラなのだが、全ての本が真っ白で、背表紙には黒色で人物の名前が書かれているものばかりだ。
その人物も、聞いたことのない名前ばかりだ。
「あれ、あの名前は……。」
ふと目をやったところに、僕の名前を見つける。本棚の一番上の高い所でそれは見つけた。
同姓同名の偉人でもいるのだろうか。否、そんなこと家族から聞いたことは一度も無い。
「おばあちゃん、ちょっと見たい本があったんだけど、読んでもいいですか。」
「ああ、構わないよ。脚立をつかいなさい。」
おばあちゃんの言葉に甘えて僕は脚立を使い、一番上の段にある僕の名前が書かれた本を手に取った。
僕はそれを二枚、三枚パラパラと捲って読んだ。
そして僕はあまりの衝撃に本を閉じた。
「おばあちゃん、まさかこの本って……。」
おばあちゃんはニコニコしながら答えてくれた。
「そんなにすぐ見つけられるなんて凄い。それはね、お前さんの人生だよ。」
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