本屋さん

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その中に書かれているのは僕の"人生"だった。 曖昧な表現に聞こえるかもしれないが、そう言うしか他になかった。 そこには僕が生まれた日の事から、実際に起きた怪我や病気、初恋のことや、初めて友達と喧嘩した時のこと。 その全てがそこに記されていた。 そして僕が加奈恵に告白してからの、明日以降の人生もそこには書き写されていた。 加奈恵とめっきり話をすることが無くなり高校を卒業、人生を悲観した僕は就職も進学もせず部屋にひきこもりがちになる。 それ以降は大した事件も怪我もなく、ただ一向に病気は進行していき七年後入院、そこから病院生活をが始まり辛い治療の末九年後の冬僕は?き苦しみ人生を恨み一生を終える。 「こんな……馬鹿らしい。」 僕は本を投げ捨てようとした。しかし僕には投げ捨てることが出来なかった。 僕が経験してきた僕の人生がここに全て記されている。これは間違いない。じゃあ僕はこの先、この本の通り何もない未来をただ苦しみながら過ごしていくだけなのだろうか。 「いやだ……こんな、いやだよ。」 湧き上がる感情を抑えることが出来ず、僕は涙を流した。おばあちゃんはずっとニコニコしながら僕を眺めている。 そうだ、加奈恵。加奈恵の人生はどんなものなんだろうか。 加奈恵は幸せになれるんだろうか。僕を振り、僕が死んだ後僕の病気を嘘扱いしたことに後悔するんじゃないだろうか。 そうだったらどれだけ嬉しいか。 それだけでもしれたら僕は満足だ。加奈恵には幸せになってほしい。でも僕のことは忘れないで欲しい。ずっと僕の存在を心の中に留めておいてほしい。 「おばあちゃん、他の人のやつも見ていいんですか。」 「ああ、構わないよ。ここは本屋さんだ、好きな本を好きなだけ見ていってご覧。」 僕はおばあちゃんの言葉に甘えて加奈恵の名前が入った本を探した。 どうやらこの本は生まれた年月日ごとに別れているようで、僕は加奈恵の名前を探すのに二時間近くかかった。 「あった、加奈恵だ。」 僕は加奈恵の名前が入った本を手に取って読んでみた。加奈恵は逆子だったらしく、帝王切開で生まれたそうだ。 そして保育園に入学した頃から、僕の名前が出てきた。そして僕のことが想い人だと書かれていた。 その言葉に僕は赤面した。 加奈恵も、僕のことを好きなのか。
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