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夕立
急に外が薄暗くなり、遠雷が聞こえた。
「降ってくるな、これ」
寧心寺商店街にある絵本屋コレーダの店主、是枝沙苗はレジカウンターから立ち上がると、アメリカンカントリー調にしつらえてある店内を横切り店の入口へと向かう。
店の入り口はモスグリーンに塗られた木製の観音開きの扉になっていて、客が来たらすぐわかるようドアベルが付けられている。扉の上半分には「Coreda」と書いてあるガラスがはめられており、扉の横には大人の腰のあたりから天井まで届くほどの大きさの窓。窓には日光を適度に遮ることができるよう、薄いレースのカーテンがかけられている。
扉を開けると、雨の匂いのする冷たい風が吹き付けてくる。空を見上げれば暗い雲が低く垂れ込めていた。夕立がくるのはほぼ間違い。
沙苗は、店の外に出してある看板に雨よけの透明なシートをかけた。看板といっても、黒板にチョークアートで『絵本屋Coreda』と書いて木製のイーゼルに立てかけただけのものだ。イーゼルは椅子の形をしていて、背もたれ部分ににっこりと笑った顔に見えるよう穴が開けられていて、頭の上には小さな麦わら帽子が乗っている。看板娘のイーゼルちゃん、と沙苗は呼んでいた。
店内に戻ると、まもなく大粒の雨がざあっと音を立てて降りだしてきた。雷の音が近づいてくる。遠くから救急車とパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
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