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智和はくっくっと笑い続けている。
「……うん、なんかお前が言いたいことわかった気がする」
それから智和は居住まいを正し、こう言った。
「男の子のことやろ?」
沙苗は息を呑んだ。
「わかるん?」
「まあ、見えるからな」
「あんた昔はそういうの見えへんし、霊感みたいなもんもあらへんって言うてたやん。あれ嘘やったん?」
「嘘やないよ。前はなんかいるなってのしかわからへんかったんや。だからといって何ができるか言うと、何もできひん。要は、知らんぷり、気づかんふりしかできひんかったわけや」
ふうん、と沙苗は頷いた。
「修行して、少しは見えるしなんとかできるようになったけど。それでも変な話、みんなが期待するようなことはようやらんよ」
「期待するようなって?」
「うん、破っ!みたいな気合いや九字切りで悪霊退散、みたいな?」
智和が派手なアクションでお祓いをしているところを想像し、思わず沙苗は笑ってしまった。
「ほな、何ができるん?」
「まあ、話というか、意思の疎通くらい?」
「いや、それでも十分すごいやろ」
沙苗の顔がぱっと明るくなった。解決の糸口としてはそれで十分だ。この店に見えない男の子がいるのははっきりした。あとはこの子が何者で、何を求めてここにいるのかわかれば対応のしようもあるはずだ。
「とりあえず確認したいんやけど、その男の子はやっぱり、その……幽霊なん?」
うん、と智和は頷いた。背すじがぞくりとして、思わず沙苗は振り返って店内を見る。
「怖がらんでええよ。悪い子やない。両親とはぐれてもうて、どうしようか思って歩いてたら、この店を見つけたんやって。沙苗が入ってええって言うたから入ってきたらしいんやけど」
「入ってええって言うた?」
沙苗は首をかしげ、そしてすぐに思い出した。お楽しみ会があった日、春香に向かってこういったのだ。次来はったら、入れてあげるわ、と。あれがはからずも、迷子の幽霊をこの店に招き入れるきっかけになってしまったらしい。思わず沙苗は身を震わせた。
それを見て、智和はまた少し笑う。
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